ケルト民族の言葉
スコットランドは現在でこそ英語が主流となっていますが、かつての言語は紀元前までさかのぼり、この地に文明を建てたケルト人に由来します。
蒸留所の名前は、ケルト語から発生したとされるゲール語を代表とし、ブリトン語、ヴァイキングのノース語など複雑に入り混じり、その由来は興味深いものです。
操業中の蒸留酒・閉鎖した蒸留所に関わらず、蒸留所名の意味を調べられた範囲で掲載しており、地域ごとにアルファベット順に並べてあります。
蒸留所のゲール語意味
ゲール語単語帳
- ach, auch = 野原, 畑
- ard = 岬, 小丘, 高台
- bal, bally = 農場,
- - beg = 小さい
- ben = 山, 丘
- blair = 平原, 開拓地
- brae = 丘の斜面
- cairn = 石の山, 岩山
- craig = 険しい岩山
- dal = 広々とした谷
- dour = 水, 小川
- dub, dou = 黒
- dun, dum = 要塞, 丘
- eder = ~の間
- glen = 谷, 峡谷
- inch, innis = 島
- inver = 河口, 合流点
- knoch = 丘, 小山
- kyle = 海峡
- lis = 邸宅, 宮殿
- loch = 湖, 内湾
- - more = 大きい, 偉大
- strath = 谷(glenより広い)
- tom = 丸い山, 丘
スペイサイド - SPEYSIDE
- ABERLOUR アベラワー = ラワー川の落合
- ALT A' BHAINNE アルタナベーン = ミルク色をした小川
- AULTMORE オルトモーア = 大きな小川
- BENRIACH ベンリアック = 灰色がかった山
“ben - ベン” は 『山』 、 “riach - リアック” は、ゲール語の “riabhach = 灰色がかった” に由来すると思われる。
同名の山は存在しないが、付近にはブラックヒル(黒い丘)、ブラウンミュアー(茶色の荒れ地)という丘や湿地があることから、それらから連想されているのかもしれない。 - BRAES OF GLENLIVET ブレイズ・オブ・グレンリベット = 谷の上部の急斜面の土地のグレンリベット
- CAPERDONICH キャパドニック = 秘密の井戸
- CARDHU カードゥ = 黒い岩
- CRAGGANMORE クラガンモア = 突き出た大岩のある丘
“crag - クレグ” は 『突き出た岩』 、 “more - モア” は 『偉大な, 大きな』 。 - CRAIGELLACHIE クレイゲラヒ = 無情に突き出た大岩
- DAILUAINE ダルユーイン = 緑の谷間
- DALLAS DHU ダラス・ドゥー = 黒い水の流れる谷
- GLENALLACHIE グレンアラヒ = アラヒの谷
“allachie - アラヒ” とは、ゲール語の “eiligh” から派生した言葉で、 『岩だらけの, 石ころの多い』 という意味と思われる。 - GLENFARCLAS グレンファークラス = 緑の草原の谷間
- GLENFIDDICH グレンフィディック = 鹿の川が流れる谷、鹿の谷
- GLEN KEITH グレン・キース = 森の谷
“keith - キース” の語源は、ゲール語でなくケルト語の一種ブリトン語の “coed = 森” に由来するらしい。 - THE GLENLIVET ザ・グレンリベット = 静かなる谷
かつてスペイサイドの流行で、ジョージ・スミスが1824年に創業したグレンリベットの名にあやかろうと、雨後の筍のようにグレンリベットの名称があちこちに出現した。19世紀後半には、その数は20近くにものぼったという。中にはリベット渓谷から30km以上離れた蒸留所もあり、 『スコットランドでもっとも長い谷はリベット谷だ。』 というジョークも生まれたほど。そのため元祖だけが定冠詞をつけて 『ザ・グレンリベット』 となったのは有名な話。 - GLENLOSSIE グレンロッシー = ロッシー渓谷
近くを流れ源泉となっているロッシー川から由来。 - INCHGOWER インチガワー = 川のそばの山羊の放牧地
“inch - インチ” は、ゲール語で 『島』 の意味もあるが、この場合、 『川のそばの草地』 を示す。 “gower - ガワー” は 『山羊』 。 - KNOCKANDO ノッカンドー = 小さな黒い丘、小さな黒い塚
- LONGMORN ロングモーン = 成人の場所
古英語の “ランモーガンド = 聖人の地” からきているという説もある。 - THE MACALLAN ザ・マッカラン = 聖コロンバの丘
- MANNOCHMORE マノックモア = 大きな丘
蒸留所の南にあるマノックヒルから付けられたと考えられる。 - MORTLACH モートラック = 椀状のくぼ地
- PITTYVAICH ピティヴェアック
ピクト語で、 “pitty - ピティ” は 『ピクト人の集落』 、ゲール語で “vaich - ヴェアック” は牛小屋を意味する。はっきりとした語源はわからない。 - STRATHISLA ストラスアイラ = アイラ川が流れる広い谷間
『谷間』 としてよく使われる “glen - グレン” だが、もうひとつ 『谷間』 の意味を持つ単語が “strath - ストラス” 。strath は広い谷間を意味する。 - TAMDHU タムデゥー = 黒い小丘、黒い塚
- TAMNAVULIN タムナヴーリン = 丘の上の水車
- TOMINTOUL トミントゥール = 納屋の形をした丘
- TORMORE トーモア = 大きな丘
北ハイランド - NORTH HIGHLAND
- BALBLAIR バルブレア = 平らな土地にある集落
“bal - バル” は 『集落』 、 “blair = ブレア” は 『平らな土地, 平野』 。 - CLYNELISH クライヌリシュ = ???
- DALMORE ダルモア = 川辺の広大な草地
“dalmore” は、ゲール語とノース語(ヴァイキングの言葉)に起源を持つ語。 - DALWHINNIE ダルウィニー = 落ち合う場所、集結場、中継所
“dal - ダル” は 『場所』 、 “whinnie - ウィニー” は 『会う』 。
パースとインヴァネスを結ぶA9道路は昔からの街道で、家畜の運搬のほかに密造酒もこのルートを通って南に運ばれた。さらに、清教徒革命を主導したクロムウェルの鉄騎兵たちも、スコットランド独立を訴えたジャコバイト軍もダルウィニーの地を通って北に南に駆け抜けていった。そういう意味で歴史的な中継所と言ってもいいかもしれない。 - GLEN MHOR グレン・モール = 偉大な谷
“mhor - モール” は、ボウモアの “more - モア” と同様、 『大きい, 大いなる』 の意味がある。古くは “ヴァー” と発音していたので、地元の人の中には “グレン・ヴァー” と発音する人もいる。 - GLENMORANGIE グレンモーレンジ = 大いなる静寂の谷間
- =ROYAL BRACKLA ロイヤル・ブラックラ
創業1812年、ウィリアム・フレイザー。密造者との競争を避けるため、ローランドやイングランドで売られたせいか、国王ウイリアムⅣ世(在位1830~37年)のお気に入りとなり、1835年に蒸留所としては初のロイヤルワラントを授けられた。 - TOMATIN トマーチン = ネズの木の茂る丘
南ハイランド - SOUTHERN HIGHLAND
- ABERFELDY アバフェルディ = パルドックの河口
- BLAIR ATHOL ブレア・アソール = 新しいアイルランド
- EDRADOUR エドラダワー = スコットランド王エドレットの小川、二つの小川の間
- GLENGOYNE グレンゴイン = 鍛冶屋の谷
- GLENTURREN グレンタレット = タレット川の谷
かつては所在地の村の名前を取って “Hosh - ホッシュ” と名乗っていたが、19世紀後半グレンタレットに改名された。 - LOCH LOMOND ロッホ・ローモンド = ローモンド湖
ブランド名のインチマリンは、ローモンド湖中最大の島の名前。
東ハイランド - EAST HIGHLAND
- ARDMORE アードモア = 大きな丘
“ard - アード” は 『丘, 岬』 、 “more - モア” は 『偉大な, 大きな』 。 - BANFF バンフ = 仔豚
ケルト民話ではアイルランドの愛称にも使われる。 - FETTERCAIRN フェッターケアン = 斜面の上の森
“fetter - フェッター” は 『斜面, スロープ』 、 “cairn - ケアン” はブリトン語の “carden - カーデン” から来た言葉で、 『森』 の意。 - GLENDRONACH グレンドロナック = 黒イチゴの谷
- GLENESK グレネスク = エスク川の谷
“esk - エスク” とは、ケルト語の一種でゲール語とは婚戚関係にあるブリトン語で川を意味している。 - GLENGLASSAUGH グレングラッサ = 緑野の谷
- GLENURY ROYAL グレンユーリー・ロイヤル = ユーリー谷
下院議員でも会った創業者ロバート・バークレイは社交界への顔利きはズバ抜けており、高貴なる婦人ミセス・ウィンザーの口利きで、時の国王ウイリアムⅣ世からロイヤルの称号を付ける事を許された。 - KNOCKDHU ノックドゥー = 黒い丘
ノックヒルから付けられた。 - MACDUFF マクダフ = ダフの息子
以前この地は、ダウンと呼ばれる小さな村であったが、この地を支配したファイフ伯ジェームス・ダフの名をとってマクダフに改められた。ブランド名のグレン・デブロンはデブロン川から来ている。 - ROYAL LOCHNAGAR ロイヤル・ロッホナガー = 岩の露出した湖
ジョン・ベグがロッホナガー蒸留所を建てた3年後の1848年に、偶然ヴィクトリア女王が隣のバルモラル城を買い、夏の離宮とした。ベグは早速隣人に 『一度自分の蒸留所を見学に訪れませんか』 という手紙を書いた。女王の夫君アルバート公が大の機械好きと聞いていたからだ。すると、翌日の夕方、突如女王一家が蒸留所を訪れたのである。女王夫妻と二人の王子のロイヤルファミリーはベグの案内で蒸留所を見学して回った。数日後、ベグのもとにロイヤルワラントが届けられた。
西ハイランド - WEST HIGHLAND
ローランド - LOWLAND
- AUCHENTOSHAN オーヘントッシャン = 野原の片隅
- INVERLEVEN インヴァリーブン = リーヴン川の河口
- ROSEBANK ローズバンク = 野バラの堤
- MAGDALENE セント・マグデラン
セント・マグデランとは、リンリスゴーの町にある古い十字架のことで、マグデラン聖人にちなんで付けられたもの。
アイラ - ISLAY
- ARDBEG アードベッグ = 小さな丘、小さな岬
“ard - アード” は 『丘, 岬』 、 “beg - ベッグ” は 『小さい』 - BOWMORE ボウモア = 大きな岩礁
- BRUICHLADDICH ブルイックラディ = 海辺の丘の斜面
- BUNNAHABHAIN ブナハーブン = 河口
- CAOL ILA カリラ = アイラ海峡
“caol - カオル” は 『海峡』 、 “ila - イーラ” は 『アイラ島』 。 - LAGAVULIN ラガヴーリン = くぼ地の水車小屋、水車小屋のあるくぼ地
“lagg - ラグ” は 『くぼ地, 小さな谷間』 、 “vulin - ヴーリン” は 『水車小屋』 。 - LAPHROAIG ラフロイグ = 広い入り江の美しいくぼ地
アイランズ - ISLANDS
- ISLE OF JURA アイル・オブ・ジュラ = 鹿の島
“jura - ジュラ” は、ノース語(ヴァイキングの言葉)で 『鹿の島』 を意味し、実際、人口200人足らずの島に野生の鹿が6000頭ほど住んでいる。 - SCAPA スキャパ
“scapa - スキャパ” とは、ノース語(ヴァイキングの言葉)で 『貝床 - オイスター・ベッド』 を意味する。 - TALISKER タリスカー
タリスカーとは、創業者の家の名前の 『タリスカー・ハウス』 から名づけられた。 “sker - スカー” はノース語(ヴァイキングの言葉)で 『岩』 を意味しているらしいが、詳しい由来は不明。 - TOBERMORY トバモリー = メアリーの井戸
参考文献
- スコットランド旅の物語 - 土屋守
- スコットランド - 佐藤猛郎、岩田託子、富田理恵
- モルトウィスキー大全 - 土屋守
- ウィスキー・エンサイクロペディア - マイケル・ジャクソン
- モルトウィスキー・コンパニオン - マイケル・ジャクソン